―――自然は、沈黙した……
うす気味悪い。
鳥たちはどこへ行ってしまったのか。
みんな不思議に思い、不吉な予感におびえた。

裏庭の餌箱は、からっぽだった。
ああ鳥がいた、と思っても、死にかけていた。
ぶるぶるからだをふるわせ、飛ぶこともできなかった。
春がきたが、沈黙の春だった。

――Rachel Louise Carson(1907-1964)
『SILENT SPRING』より――


『遺伝子組換えと農薬』


1・始めに

 遺伝組み換え作物が登場したのはつい最近のことである。
そもそも遺伝子組み換えが成功した年は1973年である。大腸菌を使った遺伝子組み換え技術が成功したことにはじまり、そのあと植物の遺伝子組み換えに使われるようになった。
 人類が長い時間をかけてしか行なえなかった自然交配などの品種改良を、この遺伝子組み換え技術が、いとも簡単に行なってしまうのだ。
 しかも、他の種の性質を持たせることができるといった、今まではありえなかったことができるのだ。

 しかし現在では、遺伝子組み換え技術は、その安全性について騒がれている。
 もちろん日本でも、遺伝子組み換えした食物にういては安全性を確認したうえで、消費者の元に届けられている。

 そもそも、遺伝子組み換え作物が世間で安全性が騒がれるようになった発端は、1989年にアメリカで遺伝子を組み換えた枯草菌を利用したトリプトファンによる健康被害が起こったことによる。
 アメリカでは、トリプトファンは不眠症に効果がある食品として売り出されていた。 しかし、遺伝子組み換えをしたトリプトファンを食べた人々に、筋肉の痛み、呼吸困難、咳、発疹などの症状が現れた。 この商品を調査した結果、商品中に予期しなかった有害な物質が含まれていたことが判明した。

 この物質が遺伝子組み換えによる副産物であるかどうかは不明なままであったが、 安全性が確認されないまま、市場に出回ったことで、問題視され、世界各地で、 遺伝子組み換え食品の安全性について考えるきっかけとなったのである。

2・遺伝子組換えとはどんな技術か

 遺伝子組換えとは、細胞内に人工的に遺伝子を導入するための技術であり、 本来農作物などが作りえないたんぱく質を作らせることができるようになる。

 プロモーターに結合した遺伝子を植物細胞内に導入する。
その方法としては、「アグロバクテリウム法」が最も一般的な方法である。 「アグロバクテリウム」と呼ばれる細菌は「Ti-プラスミド」という小さな環状のDNAをもっており、 そのなかの「T-DNA」という領域が植物に感染すると、その細胞中のDNAが移転するという性質を持っている。 プロモーターに連結した目的遺伝子」を、T-DNA内に導入すれば、目的遺伝子が植物細胞内のDNAへ移転し、 そこで目的のたんぱく質を作るようになるのである。

 しかし、アグロバクテリウムは単子葉植物には感染しないので、遺伝子を物理的に導入する方法もある。 パーティクルガン法とエレクトロポーレーシィン法である。パーティクルガン法は導入したい遺伝子を、 金属片に固着し、ガスの圧力などを利用して植物に直接打ち込む方法である。 また、エレクトロポーレーシィン法とは、作物に電圧をかけて、細胞膜に穴をあけ、 遺伝子を直接導入する方法である。

 遺伝子組み換えと品種改良との違いは、 遺伝子組み換えは上記のように他に由来する遺伝子を細胞内に直接導入することに対し、 品種改良は遺伝子学的交配(メンデルの法則)を利用して、改良する方法である。
 例えば、「病気に強いが味が悪い種」と「病気に弱いが味が良い種」をかけ合わせ、 「病気に弱く味も悪いもの」といった、目的に合わないものは排除していき、 「病気に強く味も良い種」だけを作り出せるようにする。
 品種改良は目的の性質を持った作物の開発に長い時間がかかるのに対し、 遺伝子組み換えは、目的の遺伝子さえ導入できれば、 長い時間をかけなくとも思い通りの性質がすぐに生成できるといった早さもある。

3・遺伝子組み換えの意味

 遺伝子組み換えが使われる大理由としては、 「病気・害虫抵抗性」と「特定の除草剤耐性」「日持ち向上性」があげられる。

 まず、除草剤耐性遺伝子を導入した植物は、主に大豆や菜種が上げられる。 除草剤に耐性を持たせることによって、除草剤を撒いても遺伝子を組み換えた作物は枯れずに残り、 他の雑草だけが枯れるようになる。

 害虫抵抗遺伝子を導入した植物は、トウモロコシやジャガイモがある。 害虫にはガやコガネムシなどがいるが、それらの天敵である「Bt菌」といわれる細菌から、 害虫を殺すたんぱく質を合成する遺伝子を作物の細胞内に導入すれば、殺虫剤の使用を抑えることができ、 労力やコストが削減できる。Bt菌は土壌中に在住しており、 特定の害虫以外に影響は及ぼすことは少ないと考えられている。
 除草剤耐性や害虫抵抗の遺伝子のお陰で、従来よりも、多く収穫ができるようになり安く提供できるようになるのだ。

 また、日持ち向上性を持たせたものに、トマトがある。通常は実が熟すと「ポリガラクチュロナーゼ」という酵素の働きで、 ペクチンが分解され果皮が柔らかくなる。 これを抑制するためにトマトのポリガラクチュロナーゼを生成する遺伝子の一部を逆向きにして、 遺伝子を組み換える。そうすることによって、熟しても果皮が柔らかくなりにくく、カビの発生も少なくなる。

 そのほか、人体に有益な成分を多く含む作物や、 厳しい環境下でも生育できる作物などの開発を目指した研究も進んでいる。

4・遺伝子組み換えと農薬の害

 世界で最も使われているという除草剤のひとつ「グリホサード」は、 イネ科、キク科、タデ科、アブラナ科などの雑草に対して効果がある。 輸入量の最も多い除草剤の一つであり、実際に使用した場合、 土壌中で化学反応を起こして、N-ニトロソグリホサートという物質に変化するが、 これの発ガン性が心配されている。この物質は分解されにくく、140日たってからも、 見つかったことがある。土中の昆虫や、微生物への影響が心配されるほか、 農作物へ吸収されるため、人体への影響は心配される。
 除草剤耐性の畑では農薬の散布が大量に行なわれている可能性を考えると、残留が心配である。

 また、遺伝子組み替えによって、植物に本来含まれていなかった物質が作られるようになり、 それが人体に影響があるかどうかという安全性を心配する声もある。新たに作り出されたタンパク質が、 人体に影響を及ぼすのではないか、アレルギーを起こす作用がないか、また、 抗生物質耐性遺伝子が作り出す酵素も人体に影響がないのかと心配されている。

 しかし、これらの酵素は、加熱や消化液で分解されることが確認されているので、 安全性には問題がないとしているが、遺伝子組み換えによる害虫抵抗ジャガイモをラットに与えたところ、 腎臓や脾臓、胸腺、胃などの組織における成長障害と、免疫力の低下がみられたことや、 遺伝子を組み換えたトウモロコシの花粉が標的害虫ではない蝶の幼虫にも影響を及ぼしたというように、 悪影響も実際にみられる。実際のところ、遺伝子組み換え作物の安全性は100%といえないところがあるのが現状である。

 

5・日本での評価・対策

 1989年アメリカで発生した遺伝子組み換えトリプトファンによる健康被害事件によって、日本でも、 遺伝子組み換え食品の安全性を見直しその評価方法を明確にするきっかけとなった。

 現在、食品への技術利用には、5段階の安全性評価試験を行なうことになっている。
 第一段階は科学技術省の定める「組み換えDNA実験指針」等にもとづき、実験室・隔離温室での安全性評価。 ここでは作物が人間に危険な成分など発現しないかどうかを確かめる。
 第二段階は非閉鎖系つまり網室といって外気とはつながっているが虫などは入れない温室での安全性評価。
 第三段階は農林水産省の「農林水産分野における組み換え体の利用のための方針」にもつづいた、 周囲を林などで囲まれた屋外の圃場での安全性評価。花粉による周辺植物との交配など、環境への影響が調べられる。 日本で栽培されず、輸入するだけの作物は輸出元の国で安全性評価が終えられてくるが、 もう一度輸入後にこの第三段階の評価はすることになっている。
 第四段階は一般圃場での安全性評価となり、最後に第五段階として、 厚生省がつくった「組み換えDNA技術応用食品・食品添加物安全評価指針」に もとづいて食品としての安全性評価がある。

 また、各国で様々な問題が議論されている。一つは「追跡可能性」、分かりやすく言えば「因果関係証明性」。何か事が起こったときに、原因となった食品がどこの国のどの農場で生産されたのかを追及できるようにしておくことで、遺伝子組み換え食品は100%安全だとは証明されていないので、因果関係がきちんと証明できるように前もって規則を決めておく必要があるということだそうだ。イタリアやフランスなどが追跡性を主張した。
 二つ目は「予防の原則」。予防の原則とは、99%安全でも、 残り1%の安全性が証明されなければ危険だとみなして対策を講じる。 対策には輸入禁止とか、表示の義務化、分別管理、栽培禁止などいろいろあり、 予防の原則はヨーロッパが主張しています。これに対してアメリカや日本などは危険原則が主流であり、 これは危険性が100%証明されない限り、99%灰色でも安全だという考え方である。
 もう一つ、「実質同等」という言葉がある。味、色、におい、 その他の基本的性質が同等なら非遺伝子組み換え作物と同等だとみなす。 これがアメリカの主張である。

 遺伝子組み換えは、調べなければならないことがたくさんあり、 その一つが、何世代に渡った場合の影響という問題である。 また、まだまだ対策の面においても不安が残る。 日本でも特に、消費者団体等を中心に遺伝子組み換え食品であるかどうかの表示を求める声が強まってきている。

 遺伝子組み換え技術は、農薬を使用しなくともいいように、害虫に強い植物にするために遺伝子組換えを行なっており、 一見環境にも優しそうにも見えるが、除草剤などの農薬に抵抗できるように遺伝子を組み換えて、農薬をどんどん使えるようにしている。 また。遺伝子組み換えのために本来、 植物内では作られない「毒素」を作り出す遺伝子を使うことに問題があるように思える。
このような事実があるので遺伝子組み換えを作物に使うことについて、賛成しない人も多い。

6・遺伝子組み換えの課題

 遺伝子組み換え作物は農薬の大量散布など様々な問題も孕んでいるが、悪い点ばかりではなく、 厳しい条件下でも生育できる作物や、栄養素の高い作物なども開発できるという点では、期待が持てる技術である。
 また、Bt菌の遺伝子を導入した作物を食べる害虫現れはじめるなど、あらたな問題が出てきている。 対策として新たな毒素遺伝子を組み込むか殺虫剤を撒かなくてはならないなど、問題は出てきている。 しかし、農薬は環境にも人間などの生物にも良くない。そして、遺伝子組み換えも、 人体に影響を及ぼすようなたんぱく質を作り出す遺伝子が組み込まれるかもしれないと考えると、 完全に安全なものとは言い切れない部分がある。
 これらの「はっきりしていない安全性」の問題をいかに考え解決していくかが今後の課題となっていくことと思う。

 また、消費者として、意思表示をしていくことが大切である。例えば、現在の現状や事実を多くの人に伝え、 遺伝子組み換え食品を買わないこと、安全性の立証、表示の義務付けを求めることなど、 「食べたくない!」という声をあげていくことが第一です。

 しかし、また一方で消費者が、農薬を使わせているものもあることを忘れてはいけない。 消費者は虫つきのものを好まない傾向がある。そのため、 売れるためには「虫もつかない」商品を作らなくてはいけないので、農薬を使って虫を殺すようになる。 殺虫剤が使われる大部分の理由は、ある意味で、消費者が使わせているように感じる。 農薬が嫌だからなくして欲しい、でも、形がきれいなものが良いというのは、はっきりいって、自分勝手だと思う。

 安全なものを買うには、多少形が悪くても気にしないで買うという、消費者の意識がないかぎり、 なかなか出来ないように思える。
 このような消費者の意識変化は安全な食物を手に入れていくうえで大切なことだと思う。

7・最後に

 危険なものは、なるべく摂りたくないのは分かるが、だからといって「すこしでも危険があるものは悪い」、 即使うのをやめる。と言い出すのはのは良くないと思う。確かに、薬品を使うのをやめれば、 その薬品によって身体が蝕まれることは無いように思える。 しかし、その薬品をやめた時何が起こるか考えなくてはならない。

 確かに、薬品を使うのをやめれば、その薬品によって身体が蝕まれることは無いように思える。 しかし、その薬品をやめた時何が起こるか考えなくてはならないと覚えておきましょう。

 例えば、水道水。水道水には塩素が含まれています。この塩素が水中の物質と反応を起こして、 毒性のあるものに変わることもあるそうです。塩素そのものも、体に良くなさそうです。 だから、塩素を使うなといって、使わなくなると、何が起こるかというと、 雑菌やウイルスが繁殖し、コレラなどの病気が流行るわけです。

 やめた時の危険性と、続けたときの危険性について知り、安全性・危険性の比較尺度を持つことが大切なことである。

 テレビや雑誌といった巷に流れる「〜という物質は身体に悪い」「〜だから危険」という情報は、 気にとめておく程度がいいと思いました。一部おおげさだったり、悪いところを強調するために、 その部分しか伝えていなかったりする。このような情報を鵜呑みにし危険なものの度合いを良く知りもしないで、 非常におびえたり、過剰に反応したりして、「それは悪いものだ」と決め付け、ただ、否定して終わるのではなく、 正確な知識をもち、選んでいけるようになることが大切であると思う。


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→添加物・毒物の恐怖に毒されたい人は……?
『参考にした(する)書物たち』

1・『沈黙の春』 レイチェル・カーソン(青木簗一訳)1974年 新潮社
2・『食卓の科学毒物事典』渡辺雄二 1995年9月15日 三一新書
3・「遺伝子組み換え食品Q&A」軽部征夫(『Newton』1999年11月号)(株)ニュートンプレス
4・『食べるな危険!』日本子孫基金 2002年10月8日 講談社
5・「生産者・消費者の意見を反映する遺伝子組み換え食品の安全評価を」伊庭みか子(『日本の進路』2000年4月号)

6・『健康・美容・ダイエット食品 危険度チェックブック』体験を伝る会(編) 1998年11月3日 情報センター出版局
7・『アレルギー 危険度チェックブック』体験を伝る会(編) 2000年12月2日 情報センター出版局
8・『食品・化粧品 危険度チェックブック(改訂版)』体験を伝る会(編) 2003年4月22日(改訂版/第18刷) 情報センター出版局
9・『家庭用品 危険度チェックブック』体験を伝る会(編) 1997年6月29日 情報センター出版局
10・『市販薬・医薬部外品 危険度チェックブック』体験を伝る会(編) 1997年6月29日 情報センター出版局

11・『メーカーにだまされない!化粧品毒性判定事典』小澤王春 2001年7月9日 (株)メタモル出版
12・『毒物犯罪カタログ』国民自衛研究会 1995年6月25日 (株)データハウス
13・『法医学ノート』古畑種基 1975年10月10日 中公文庫
14・『図解・中毒マニュアルpert2』暮らしに潜む危険を考える会 19957年8月7日 (株)同文書院
15・『完全自殺マニュアル』鶴見済 1993年7月2日 (株)太田出版

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